解説編
抗HIV療法(治療ガイドライン)
Last updated: 2022-09-29
抗HIV療法の進歩に伴い、HIV感染者の生命予後は劇的に改善した。最新の知見によれば、早期に診断され適切に管理されているHIV感染者の生命予後は、HIV感染症以外の疾患(ウイルス性肝炎など)の合併がない場合には、非HIV感染者と大きく変わらないと考えられている。
未治療のHIV感染者においては、非エイズ合併症(動脈硬化性疾患・腎疾患・悪性腫瘍などエイズ指標疾患に含まれない疾患)のリスクが増加する。これはHIV血症に伴う炎症の持続や血管内皮障害によるものと考えられており、抗HIV療法の目的は「障害された細胞性免疫能の回復・維持」から「HIV増殖を抑制することによる非エイズ合併症の予防」に変化しつつある。2015年に報告されたSTART試験の最終報告では、CD4陽性Tリンパ球数500/microL以上であっても抗HIV療法が様々な合併症のリスクを低下させることが示された。有効な抗HIV療法によるHIV感染リスク低下に関するエビデンスも集積しており、無症候性HIV感染者も含めすべてのHIV感染者に対して早期治療開始が推奨される根拠となっている。
初回治療
初回抗HIV療法の開始時期ならびに薬剤選択に関しては、各国の事情を反映して様々なガイドラインが存在する。国内のガイドラインとしては「抗HIV治療ガイドライン」(厚生労働省研究班 https://hiv-guidelines.jp/index.htm)と「HIV感染症 治療の手引き」(日本エイズ学会HIV感染症治療委員会 http://www.hivjp.org/ )が、海外のガイドラインとしては米国保健福祉省(DHHS)https://hivinfo.nih.gov/ と欧州エイズ臨床学会(EACS)https://www.eacsociety.org/guidelines/eacs-guidelines/ のガイドラインが、しばしば参考とされている。知見の集積に伴いガイドラインは随時更新されているため、治療方針決定にあたっては最新のガイドラインを参照する必要がある。
治療薬変更
初回治療開始から一貫してウイルス学的失敗の既往がない例においては、より簡便な新しい世代の抗HIV薬への変更は、通常問題なく可能である。
治療失敗歴がある症例、服薬アドヒアランスが十分でなかったことが推測される時期のある症例では、治療薬変更はより慎重に行う必要がある。変更に伴う治療失敗やさらなる薬剤耐性の蓄積を回避するため、専門家の助言を求めることが望ましい。良好なHIV抑制効果を得るためには、十分に効果を維持している抗HIV薬を少なくとも2剤以上併用する必要がある。
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