ACC診断と治療ハンドブック

日和見疾患の診断・治療

急性HIV感染症

Last updated: 2022-09-29

概念

 急性HIV感染症は、HIVの初期感染でみられる一連の病態であり、通常 HIV抗体の産生はないか不十分で、ウイルス量は高値(p24抗原またはHIV-RNAが陽性)を示す。 HIVに初感染例の40-90%で発熱、咽頭痛、リンパ節腫脹や皮疹のような”伝染性単核球症様“または”インフルエンザ様”の症状を呈すると考えられている。多くの症例は非特異的な症状であり、数週の経過で自然軽快するため、診断されずに見逃されやすい。病歴等から急性HIV感染を積極的に疑い、性的活動性を含めた詳細な病歴聴取を行った上で、積極的にHIVスクリーニング検査を実施する事が重要である。
 急性HIV感染症を診断する事で、早期に抗HIV治療を開始できれば患者の生命予後の改善につながるのみでなく、二次感染者を防ぐ事で社会における感染拡大防止戦略としても非常に重要である点を強調しておきたい。

臨床像

 過去の報告から症状を以下に示した。下記の表のとおり症状は非特異的である。しかし、症状が数週間と比較的長期に遷延すること、口腔内所見(潰瘍や白苔)、皮疹や性感染症の併発などは急性HIV感染症を想起する助けとなりうる。
 口腔内所見は、典型的には有痛性の境界明瞭な潰瘍病変と報告され、これはHIV自体やまたは併発するHSV、梅毒などのSTIによるものと考えられている。また皮疹についても典型的には5-10mm程度の境界明瞭な円形の紅斑とされるが水疱病変や膿疱病変も報告されている。しかし、非典型的な症例も多くあることは念頭に置かなくてはならない。また稀な例としては、無菌性髄膜炎や顔面神経麻痺などを併発することもある。

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Clin Infect Dis 2015;61(6):1013–21

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診断

 検査のタイミングによってはスクリーニング検査(抗原抗体検査)は陰性となり得る。したがって、急性感染を積極的に疑う場合はスクリーニング検査陰性でも1-2週の間隔をあけて再検査を行うか、あるいは初回検査時点でHIV-RNA検査(保険適用外)を同時に提出する。スクリーニング検査のP24抗原検出系は HIV-RNAと比較すると感度90%とも言われ、HIV-RNAが陽性になったあと約5-7日で検出されるという時間差がある。
 急性感染期には、野生株とともに耐性ウイルスが重複感染した可能性も考慮し、治療の開始の有無にかかわらず、薬剤耐性検査を提出することが推奨される。感染6ヶ月以上が経過した慢性期では、増殖力の強い野生型に置き換えられる事で耐性ウイルスの検出感度が低下しうる。

治療

 基本的にHIV感染症では、診断された後なるべく早期の治療導入が推奨されており、急性HIV感染症でも同様である。しかし、現在の日本の医療費助成制度では4週間以上の間隔をあけた2回の採血が必要なため、急性感染期に治療を開始することは難しい。治療開始の長所は「ウイルス学的セットポイントを低くすることで予後が改善する可能性がある」ことや、「高ウイルス量を低下させることで他者にHIVを伝播させる可能性を低くする」ことなどがあげられる。短所としては、短期および長期的な視点からの薬剤の有害事象の可能性や、高ウイルス量でアドヒアランス不良の場合に薬剤耐性化のリスク上昇があげられる。これらの長所と短所を患者が十分に理解し、医療者と相談した上で、患者毎に治療開始時期を判断することになる。しかし患者毎にその必要性を話し合うことが必要である。

 



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