ACC診断と治療ハンドブック

解説編

HIV・HBV重複感染

Last updated: 2022-09-29

 日本の新規HIV感染診断症例におけるHBs抗原陽性率は5-8%と報告されている1)。HBVには執筆時点(2022年9月)でA-Hの8つの遺伝子型(genotype)が知られているが、日本ではかつて主体であったgenotype Cにかわり、急性感染後の慢性化率の高いgenotype A(特に欧米由来のgenotype Ae)の新規感染例が増加している。一方、当センター通院中のHIV感染者においてHBs抗原陽性例とHBs抗体陽性例の初診時のCD4数を比較したところHBs抗体陽性例で有意にCD4数が高かった2)ことから、HIV重複感染者におけるHBV慢性化率の高さには、genotypeの要因に加えて、免疫不全の要因も関与しているものと考えられる。HIV重複感染例に対し、HIV感染を見逃してHBVのみの治療を行った場合、後述のように抗HIV薬の耐性化の原因となる。従って、慢性HBV感染例の診断・治療開始時にはHIVスクリーニング検査を必ず行う必要があることを強調しておきたい。
 HIV・HBVの重複感染者の治療において主に注意すべき点は、両ウイルスの薬剤耐性変異獲得リスク、ART導入後の肝障害リスク、ART治療中断時のHBV再活性化リスク、の3点である。
 抗HIV薬の核酸系逆転写酵素阻害薬のうち、テノホビル(TAF or TDF)、ラミブジン(3TC)、エムトリシタビン(FTC)の4剤は抗HBV作用を有する。逆に、HBV感染の治療薬であるエンテカビル、アデホビル(10mg以上の場合)、テノホビル(TDF or TAF)は抗HIV作用を有している。慢性HBV感染に対する3TC単剤投与は短期間で3TC耐性HBVを誘導するため、HBV重複感染症例に対して抗HIV療法(ART)を行う場合には、抗HBV作用を有する薬剤として3TCのみを含むレジメンは避けなければならない。また、抗HBV薬として広く使用されているエンテカビルは抗HIV作用を持ち、これもHIV重複感染例に対して単剤投与を行った場合、短期間でHIVに対する薬剤耐性変異(184V)を誘導し、これにより3TCに対する交叉耐性を獲得してしまうことから3)、HIV重複感染症例に対するエンテカビル単剤を用いた抗HBV療法も避けなければならない。現在のDHHSガイドラインでは、HIV/HBV重複感染者に対してARTを行う場合には、テノホビル(TAF or TDF)とFTCあるいは3TCの2剤を組み合わせた3剤の多剤併用治療を選択することが推奨されている(表1)4,5)

表1DHHS ガイドライン上のHIV/HBV重複感染例のHBV治療薬の選択,5)

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*用量調整は別項参照
肝機能障害・腎機能障害時の抗HIV薬の投与法 https://www.acc.ncgm.go.jp/medics/treatment/handbook/part1/1-03.html

 ARTを開始した後、細胞性免疫能の回復によってHBVに対する免疫応答が惹起されるため、免疫再構築症候群(IRIS)としての肝炎の悪化が生じる可能性がある。典型的な慢性B型肝炎のIRISの経過を図1に示す。IRISの多くは特に対応は不要でありART継続により一過性の経過で自然軽快し、予後は良好である。IRISを発症した症例ではHBe抗原陽性からHBe抗体陽性へのセロコンバージョンが促され、長期的にはむしろ臨床経過は良好であるという報告がある。図1の症例では、肝逸脱酵素は約3カ月後に正常化した。IRISにおいて肝機能の改善がみられなかった場合は肝障害の程度に応じて肝庇護療法を行う事も考慮するが、抗ウイルス療法をどのように変更するかについて一定の指針はない。

図1 症例: 30 歳代 男性

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HIV 感染の診断と同時にHBV 感染( HBs 抗原+ HBe 抗原陽性) を指摘された。LPVr、TDF、FTC によるART が開始されたが、 その4 カ月後に、著しい肝機能障害( T-Bil 14.3 mg/dl、AST 713 U/l、ALT 1026 U/l )が認められた。

 多くの抗HIV薬は肝障害を生じうるが、その頻度と重篤度はHBV重複感染により高くなるとされる。ART開始後早期に肝障害がみられた場合、薬剤性肝障害とIRISとの鑑別はしばしば困難であり、肝障害の程度が高度の場合にはHIV診療経験のある医師と肝臓専門医との密な連携が不可欠である。
 なお、慢性B型肝炎がなくHBs抗体陰性のHIV感染者に対しては、HBワクチン接種が推奨されている。HBc抗体単独陽性者(HBs抗原陰性かつHBs抗体陰性)に対してもHBワクチン接種が推奨されている5)。HIV感染者においてはHBワクチン接種後の免疫応答(HBs抗体陽転率、HBs抗体価)が非HIV感染者と比較して低いことが知られており5)、ワクチンシリーズ(0・1・6ヶ月の3回接種)終了後にHBs抗体価を確認し、必要に応じて再接種を行うことが推奨されている。

引用文献
1.Gatanaga H, Ibe S, Matsuda M, et al.: Drug-resistant HIV-1 prevalence in patients newly diagnosed with HIV/AIDS in Japan. Antiviral Res 2007 ; 75 : 75-82
2.Gatanaga H, Yasuoka A, Kikuchi Y, et al.: Influence of prior HIV-1 infection on the development of chronic hepatitis B infection. Eur J Clin Microbiol Infect Dis 2000 ; 19 : 237-9
3.McMahon MA, Jilek BL, Brennan TP, et al.: The HBV drug entecavir - effects on HIV-1 replication and resistance. N Engl J Med 2007 ; 356 : 2614-21
4.Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in HIV-1-Infected Adults and Adolescents. (Last updated: September 1, 2022)
https://clinicalinfo.hiv.gov/en/guidelines/hiv-clinical-guidelines-adult-and-adolescent-arv/whats-new-guidelines 5. Guidelines for Prevention and Treatment of Opportunistic Infections in HIV-Infected Adults and Adolescents. (Last updated: September 7, 2022)
https://clinicalinfo.hiv.gov/en/guidelines/hiv-clinical-guidelines-adult-and-adolescent-opportunistic-infections/whats-new

 



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