ACC診断と治療ハンドブック

日和見疾患の診断・治療

中枢神経系原発悪性リンパ腫

Last updated: 2022-09-29

病因

 免疫不全の進行により、潜伏感染しているEBVが活性化することが発症に関与すると考えられている。全身性非ホジキンリンパ腫においては、EBVの関与が全症例のうち30-40%程度とされているのに対し、中枢神経系原発悪性リンパ腫ではほぼ全例でEBVが関与している。

臨床像

 病変が中枢神経系~眼に限局しており、進行しても通常は中枢神経系以外へ転移することはない。
 組織型としてはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫が最多である。
 発症時のCD4数は、典型的にはCD4数<50/µLと進行した免疫不全例で多くみられるが、500/µL以上で診断された報告もみられる。ARTの治療普及により、本疾患の発症頻度は低下傾向にあると報告されている。
 一般的に、本症と鑑別を要するトキソプラズマ脳症では比較的小さな病変でも高度の意識障害へ進展しやすいのに対し、中枢神経系原発悪性リンパ腫はある程度進行するまで意識が保たれる傾向があり、診断時には大きな病変を形成している事が多い。

診断

 確定診断の為には、組織型を特定する目的もあるため定位脳生検が必要であるが、これまでの報告では脳生検実施例は70%程度であり、臨床的・画像的所見により診断されている症例も散見される。
 CT・MRIで病変の辺縁がリング状に造影されるのが典型的な所見である。同様のパターンはトキソプラズマ脳症でも認められる。鑑別点として、トキソプラズマ脳症では病変は多発性で、本症では単発性であることが多いが、例外も多く画像所見での両者の鑑別は困難である。
 一般的には、治療的診断として、抗トキソプラズマ治療を1~3週行うことが多い。この場合、安易にステロイドや脳浮腫改善薬を併用すると、トキソプラズマ脳症でなくとも臨床効果の改善が得られてしまい、治療反応性のアセスメントが困難となるため、初期はこれらの薬剤を極力併用しないことが重要である。抗トキソプラズマ治療が無効の場合には本症の可能性が高く、脳生検による確定診断が考慮される。脳生検の合併症および関連死亡率はそれぞれ8.4、2.9%と報告されている。
 髄液細胞診の感度は低い(過去の報告では、40例中陽性は1例のみ)。髄液EBV-DNAのPCR法による測定は感度80%、特異度は100%近いとする報告もあるが、当科では他の原因による中枢神経系病変でのEBVの二次的活性化と考えられるCSF-EBV例を複数経験している。EBV-DNA定量値の高さが他疾患との鑑別に有用な可能性もある1)
 核医学検査として、201Tl SPECT、FDG-PETが感染性病変(特にトキソプラズマ脳症)とリンパ腫病変の鑑別に有用であるとする報告もある(トキソプラズマ脳炎の項を参照)。

治療

 ART確立前は平均生存期間3か月と極めて予後不良の疾患であったが、現在は5.7年と治療成績は向上している。
 現在の標準治療は、ARTと高用量Methotrexateの併用療法である。CD4数回復による免疫能の改善が、治療成績に関わるため、診断後早期ART導入が望ましい。かつては、ARTと全脳照射が標準治療であったが、予後の改善がみられず、放射線治療の合併症として非可逆的な認知障害をきたすため、治療推奨が下がっている。
 化学療法はこれまで予後改善効果を示せていなかったが、非HIV感染例では高用量のMethotrexateとCytarabine、放射線照射の併用で生存期間の改善を得たと報告されている。また、RituximabやAutologous Stem Cell Transplantation、を組み合わせることも議論されつつある2)。Rituximabの治療有効性について、全身性のDLBCLに対する治療レジメンの中では確立した薬剤選択となっているが、PCNSLに対してはその有効性を示唆するエビデンスが少なく、知見の集積が待たれている。中でも、高用量Methotrexateの治療エビデンスが増加している3)。治療抵抗性・再発性症例では、全脳照射に置き換わって、Lenalidomide、Pomalidomideの治療が注目を集めている4,5)
 全脳照射後ARTを導入し完全寛解を得た当施設の1例を以下に示す。

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参考文献

1.Bossolasco S. et al. Epstein-Barr virus DNA load in cerebrospinal fluid and plasma of patients with AIDS-related lymphoma. J Neurovirol 2002.8:432.
2.Ferreri AJM et al. High-dose cytarabine plus high-dose methotrexate versus high-dose methotrexate alone in patients with primary CNS lymphoma: a randomised phase 2 trial. Lancet.2009.374:1512
3.Lurain K. et al. Treatment of HIV-associated primary CNS lymphoma with antiretroviral therapy, rituximab, and high-dose methotrexate. Blood.2020.136:2229
4.Rubenstein JL, et al. Phase 1 investigation of lenalidomide/rituximab plus outcomes of lenalidomide maintenance in relapsed CNS lymphoma. Blood Adv. 2018.2:1595,
5.Vu K. et al. Low-dose lenalidomide maintenance after induction therapy in older patients with primary central nervous system lymphoma. Br J Haematol. 2019.186:180

 



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