ACC診断と治療ハンドブック

日和見疾患の診断・治療

クリプトスポリジウム症

Last updated: 2022-09-29

病原体

 病原体はであるアピコンプレックス門グレガリノモルフェア綱に属する原虫クリプトスポリジウム属(C. parvum, C. hominis 他)である。ヒト症例で最も一般的であるC. parvumは人獣共通感染であり家畜、特に仔牛の感染率は非常に高く重要な感染源である。感染は主にoocystで汚染された水の経口摂取で起こるが、糞口感染として性感染症としても感染しうる。oocystは生活用水の消毒に用いられている塩素消毒では不活化できず、プールを介したアウトブレイクや療養型施設での集団感染が報告されている。殺滅には乾燥あるいは70℃以上の加熱が必要である。感染力は非常に強く10~100個の摂取で感染し発症する。

疫学

 途上国だけでなく先進国も含め世界中に分布しており、米国や英国のサーベイランスでは例年数千例が報告されている。途上国ではAIDS患者における慢性下痢の一般的な原因で最大74%との報告がある。ただ適切な抗HIV療法ができ衛生環境が整った先進国では発症率が低下しており、米国では現在1000人年あたり1例未満である。本邦の報告件数は例年100件以下であるが過小評価されている可能性がある。

病態・臨床像

 本原虫は腸粘膜上皮細胞の微絨毛内に侵入し増殖、その後感染性を有するoocystが糞便に多数排出される。感染は汚染された生水、生野菜、手指などを介するoocystの経口摂取や、性行為などでの糞経口感染によるヒト-ヒト感染を起こす。
 潜伏期は7~10日で、症状は無症候性から重症下痢まで幅広い。水様下痢が多く、通常は血便はない。腹痛、嘔気、嘔吐、軽度の発熱(36~57%)を伴うこともある。健常者の下痢は1日10行以上に及ぶ場合もあるが、2週間程度で自然軽快する。しかし、HIV感染者特に低CD4症例では重症・慢性化しうることが知られている。腸管外病変は非常に稀であるが、胆道感染(胆管炎や膵炎)の他、肺炎などが報告されている。臨床経過はCD4数と関連しており、CD4数200/µL以上では自然軽快、CD4数100/µL未満では慢性化し腸外症状、CD4数50/µL未満では重症化する可能性を考慮する。

診断

 診断は糞便からのoocystの検出による。Oocystは他の原虫と比べて小さく(直径約5µm)、通常の原虫・虫卵検査法では判別が困難であり、ショ糖浮遊法や抗酸染色法など(図)が必要であるため、臨床的に本疾患を疑った場合には検査室にその旨を連絡する必要がある。ショ糖浮遊法では屈折率の関係で薄いピンク~オレンジ色に見える(図1)。微分干渉装置付の顕微鏡であれば内部構造が確認できる(図2)が、臨床現場での使用可能な施設は限られている。簡便な便中抗原キットや感度の高い特異的免疫蛍光法(図3)もあるが、日本では体外診断薬としては認可されておらず、PCR法も研究室レベルになる。クリプトスポリジウム症は、感染症法上5類感染症(全数把握対象)であり、7日以内の最寄りの保健所への届出が必要である。

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図1.ショ糖浮遊法

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図2.微分干渉顕微鏡法

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図3. 蛍光抗体染色法

治療

 支持療法が治療の中心で、確立した特異的治療法はない。HIV患者では、抗HIV療法未導入の患者に発症することが多い。このため、抗HIV療法による免疫能回復が最も期待できる治療法であり、まず最初に行われるべきである。
 Nitazaxanideが有効(67%)との報告があるが本邦では使用できない。パロモマイシンやアジスロマイシン、リファキシミン、リファブチンが有効との報告もあるが症例が限られており保険適用外である。

 処方例
 1)Nitazoxanide(1~2g分2)14日間(免疫正常者では3日間)(国内未承認)
 2)パロモマイシン(1.5~2g分3~4)14~21日間(±アジスロマイシン14日間)(保険適用外)
 3)アジスロマイシン(600mg分1)14日間(保険適用外)

注意:Nitazaxanideは個人輸入が可能である。
輸入方法等の情報は熱帯病治療薬研究班(https://www.nettai.org)を参照。

 



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