ACC診断と治療ハンドブック

解説編

小児のHIV感染症

Last updated: 2022-09-29

 日本では、12歳以下の小児が母子感染以外の感染経路でHIVに感染する可能性は極めてまれである。ここの章では、主に母子感染によりHIVに感染した小児の診療を中心に解説する。

診断

 成人におけるHIV感染症の診断は、はじめにスクリーニング検査を行い、これが陽性の場合に確認検査としてHIV-1/2抗体確認検査(ウェスタンブロット法、GeeniusTM HIV 1/2キット)と核酸増幅検査を行う。しかし、生後12~18か月までの小児については母親からの移行抗体のためスクリーニング検査とHIV-1/2抗体確認検査が偽陽性となるため、初めから核酸増幅検査を選択する。
 HIV感染妊婦より出生した児の検査スケジュールを 表1に示す。核酸増幅検査(PCR)を出生48時間以内、生後2–3週、生後2–3か月、生後4–6か月に行う。低リスクであれば、出生48時間以内と生後2–3か月が省略できる。これらの検査で陽性が出た場合はできるだけ速やかに再検し、2回連続で陽性ならば感染が確定する。

表1.HIV感染妊婦から出生した時の核酸増幅検査(PCR)

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治療開始時期

 以前にはCD数で推奨度が異なっていたが、現在は成人と同様に小児でも全例で診断後速やかに治療が強く推奨されている。諸事情で抗HIV療法が開始されていない場合は、少なくとも3か月毎にウイルス量や免疫状態を検査する必要がある。

抗HIV療法

 小児においても成人と同様に多剤併用療法を行う。予防薬として小児にAZT単剤投与が行われているケースでは、その後に小児の感染が判明した場合には、ただちに多剤併用療法に切り替える。また、治療開始前には必ず耐性検査を提出し、その結果を参考にする。治療は成人同様、key drugとbackboneを組み合わせた3剤治療を行う。薬剤選択には月齢・年齢、体重、生成熟度により推奨が異なってくる。本邦の抗HIV療法ガイドラインはオンライン上で閲覧可能であり、本ガイドラインが参考した米国DHHSガイドライン(表2)と欧州EACSガイドライン(表3)を示す。小児で内服可能な剤形の保険認可薬は非常に限られているため、厚生労働省・エイズ治療薬研究班からの供給薬剤を使用する(表4)。研究班からの薬の入手方法については、下記ホームページを参照されたい。
(厚生労働省・エイズ治療薬研究班:https://labo-med.tokyo-med.ac.jp/aidsdrugmhlw/portal

表2.小児の抗HIV療法(DHHSガイドライン)

A.キードラッグ

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B. バックボーン

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表3. 小児の抗HIV療法(EACSガイドライン)

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表4.本邦で入手可能な乳幼児に使用可能な抗HIV薬

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日和見感染症の一次予防

 小児HIV感染者は日和見感染のリスクが高いので、成人より積極的な一次予防(発症予防)が推奨されている。一次予防の終了や再開、発症時の治療、二次予防には、小児感染症科医師や小児HIV診療専門家への相談を推奨する。以下に代表的な疾患について示す。

ニューモシスチス肺炎

開始基準:
 ~1歳:CD4数やCD4%によらずすべて
 1歳~6歳:CD4数 <500/μL, CD4% <15%
 6歳~:CD4数 <200/μL, CD4% <15%
選択薬剤:第1選択:ST合剤
第2選択:アトバコン、ダプソン
母子感染での開始時期:生後4~6週から
ST合剤は核黄疸のリスクを高めるため2か月未満では禁忌とされているが、HIV感染症乳児では生後4~6週からの内服開始が推奨される。

サイトメガロウイルス感染症

CMV-IgGを1歳時に確認し、以降も免疫抑制状態(CD4数<100/μL、CD4%<10%)ならば年1回確認する。
5歳未満で重度免疫抑制状態(CD4数<50/μL、CD4%<5%)なら6か月毎の眼科医による網膜評価をすべきである。
先天性サイトメガロウイルス感染症ではHIV非感染児と同様に症候性の場合、6週間のガンシクロビル静脈内投与を行う(保険適応外)。
開始基準:
 ~6歳:CMV-IgG陽性かつCD4%<5%で考慮
 6歳~:CMV-IgG陽性かつCD4数<50/μLで航路
選択薬剤:バルガンシクロビル

トキソプラズマ症

開始基準:
 ~6歳:CD4%<15%
 6歳~:CD4数<100/μL
選択薬剤:第1選択:ST合剤
第2選択:アトバコン(ダプソン単剤は推奨されない)
注意:母親が妊娠中にトキソプラズマ症に初感染した(無症候感染含む)場合には、母親の治療の有無にかかわらず、HIV感染症が証明された新生児に対して一次予防ではなく経験的治療の実施を考慮する。

播種性NTM症

開始基準:
 ~1歳:CD4数<750/μL
 1歳~2歳:CD4数<500/μL
 2歳~6歳:CD4数<75/μL
 6歳~:CD4数<50/μL
選択薬剤:アジスロマイシン、クラリスロマイシン
上記薬剤が内服困難(苦み等)ならばリファブチン(小児でのデータは乏しい)

ワクチン接種

 米国CDCのガイドラインでは、ワクチン接種は様々な感染症の発症または重症化予防に有効であるため、HIV感染児に対する積極的な接種が勧められている。不活化ワクチンは原則すべて推奨され、特に肺炎球菌やHibワクチンは重症化予防の観点から強く推奨される。一方、生ワクチンについては、BCGが全例禁忌、水痘や麻疹・風疹・おたふくかぜはCD4>15%以上の免疫能が保たれている児に推奨される。表5 には、日本の予防接種法施行令に明記されている定期接種ワクチンに関する情報とその他主なワクチンのHIV感染児における位置づけを表記した。実際に予防接種のスケジュールを決定する際には、専門家と相談しながら進めるべきである。

表5

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*Guidelines for the Prevention and Treatment of Opportunistic Infections in HIV-Exposed and HIV-Infected Children
https://clinicalinfo.hiv.gov/en/guidelines/hiv-clinical-guidelines-pediatric-opportunistic-infections/updates-guidelines-prevention

 



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