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HIV感染者における新型コロナウイルスワクチンに関するQ&A
公開日:2021年3月17日
はじめに
新型コロナウイルスワクチンに関するお問い合わせを多数頂いております。現時点で入手できる情報に基づき、特に多いご質問とその回答を整理致しました。
実際の接種・診療においては、個々の患者さんの状況にあわせた対応が必要となります。また、流行状況やワクチンや治療法の開発状況は常に変化しております。必ずかかりつけ医の指示に従ってください。
- Q1:新型コロナウイルスワクチンは、HIV感染者でも接種できますか?
- Q2:新型コロナウイルスワクチンは、血友病等の患者でも接種できますか?
- Q3:筋肉注射と皮下注射の違いは何ですか?(インフルエンザの予防接種と同じ打ち方ですか?)
- Q4:筋肉注射の際の凝固因子製剤の補充はどうすればよいですか?
- Q5:新型コロナウイルスワクチンを接種できないのは、どのような場合ですか?
- Q6:ワクチンの副反応はどんなものがありますか?
- Q7:新型コロナウイルスのワクチンは、必ず接種しなければいけませんか?
- Q8:新型コロナウイルスワクチン接種は、どのような流れで行われますか?
- Q9:病気を他人に知られるのがこわいため、医療機関で接種したいのですが可能ですか?
- Q10:同居の家族はどうしたらよいでしょうか?
- Q11:新型コロナウイルスワクチンの接種について、誰に相談すれば良いですか?
Q1:新型コロナウイルスワクチンは、HIV感染者でも接種できますか?
A.できます。
HIVに感染しているからといって、新型コロナウイルスワクチンの接種ができないわけではありません。
一般的に、免疫能が低下しているとワクチンの効果が減弱する可能性があることがありますが、HIV感染者において、一律に新型コロナウイルスワクチンの効果や安全性が劣るという報告はありません。
COVID-19流行が拡大するにつれ、海外で多くの調査結果が報告され、HIV感染症がCOVID-19を重症化しやすくさせる要因のひとつであることが、徐々に分かってきました。HIV感染症の他に糖尿病、腎臓病、肺の病気などの慢性疾患を合併していると、重症化する可能性がもっと高くなります。HIVに感染している方が、確実に新型コロナウイルスワクチンを接種できるよう、日本を含む多くの地域で優先接種の対象とされています。
新型コロナウイルス感染症への有効性が示された抗HIV薬はなく、抗HIV薬を服用しているからといって、新型コロナウイルス感染症を予防することはできません。しかし、免疫能を良好に保つことはあらゆる感染症の予防に重要です。抗HIV薬は欠かさず服用しましょう。
Q2:新型コロナウイルスワクチンは、血友病等の患者でも接種できますか?
A.できます。ただし、接種は筋肉注射で行われるため、筋肉内出血リスクに注意しなければなりません。
新型コロナウイルスワクチンの接種は、筋肉注射で行われます。接種を希望される場合は、かかりつけ医の指示のもと必ず十分な凝固因子活性の補充を行った上で受けて頂くとともに、接種後は、体調の変化がないか、接種した部分に異常がないか、十分な観察を行ってください。凝固因子製剤の補充について、「Q4.筋肉注射の際の凝固因子製剤の補充はどうすればよいですか?」をあわせてご参照ください。
また、ポリエチレングリコール(PEG)を含む半減期延長型製剤(アディノベイト®、ジビイ®、イスパロクト®、レフィキシア®等)に対してアレルギー反応を起こしたことがある血友病の患者さんは、接種を受けられない可能性があります。かかりつけ医にご相談ください。「Q5. 新型コロナウイルスワクチンを接種できないのは、どのような場合ですか?」もあわせてご参照ください。
ご家族で血友病保因者(推定保因者/確定保因者)と考えられる方(母親、姉や妹)の中には、出血傾向が著しい方もおられます。過去に出血が止まりにくいなどの症状があった場合は、医療機関にご相談ください。
Q3:筋肉注射と皮下注射の違いは何ですか?(インフルエンザの予防接種と同じ打ち方ですか?)
A. 筋肉注射と皮下注射では、薬剤を注入する組織の部位が異なります。筋肉注射は、皮下組織よりも深いところにある筋肉組織に届くように注射します。
ワクチンの多くは、皮下注射よりも筋肉注射の方が高い免疫反応を得られる可能性があるとされています。また、ワクチンの中には、効果を高めるためにアジュバントと呼ばれる刺激性の強い物質が添加されていることがあります。この場合、皮下注射よりも筋肉注射の方が局所の副反応が少ないという利点があります。日本では、インフルエンザも含めて多くのワクチンが皮下注射で接種されていますが、海外では、ワクチンは基本的に筋肉注射で接種されています。
しかし、血友病等、出血傾向のある方においては、筋肉注射では筋肉内出血の合併症をおこすリスクがあるため、特別な配慮が必要となります。十分な凝固因子活性の補充をするとともに、できるだけ細い針(25-27ゲージと呼ばれるもの)を使用し、接種した部分を少なくとも10分は圧迫するよう勧められています。接種した部分をもむことは決してしないでください。また、後から出血がじわじわ続いて血腫ができる可能性もあるため、接種後は接種部位をご自分でよく観察し、異常を感じたらすぐに医師にご相談ください。
日本血栓止血学会・日本血液学会からのお知らせでは、注射部位周囲の血管を収縮させ出血量を少なくするために、注射の前と終了後5-10 分の間アイスパック等で冷やすことや、利き腕が使えなくなると自己注射に支障を生じるため、もしも出血してしまった場合のことを考えて利き腕とは反対の腕に接種してもらうことが勧められています。
「Q4.筋肉注射の際の凝固因子製剤の補充はどうすればよいですか?」をあわせてご参照ください。
Q4:筋肉注射の際の凝固因子製剤の補充はどうすればよいですか?
A.かかりつけ医の指示のもとで製剤等の補充を行ってください。接種後は十分な観察を行いましょう。
世界血友病連盟のガイダンスでは、重症または中等症の血友病等の患者が新型コロナウイルスワクチンを接種する際は、第VIII因子または第IX因子製剤投の補充をすべきとされています。フォン・ヴィレブランド病の方も同様に、止血のための薬剤やVWF成分を含有する製剤を使用するべきとされています。
同ガイダンスでは、第VIII因子または第IX因子活性が10%以上では、予防的な止血処置は必要ないとされており、最低限必要な凝固因子製剤の量については10%がひとつの目安と考えられます。しかし、凝固因子活性は、凝固因子製剤を使用した直後から徐々に低下し、その低下速度は製剤や個人によって差があります。よって、ベースの凝固因子活性は、患者さんごとに凝固因子製剤の使用量や頻度に応じて変化します。インヒビターが検出されたことのある方は、更に慎重な判断が必要となります。そのため、必ず接種前にかかりつけ医にご相談頂き、凝固因子製剤の使用法について具体的な指示を得てください。
「Q3.筋肉注射と皮下注射の違いは何ですか?」もあわせてご参照ください。
Q5:新型コロナウイルスワクチンを接種できないのは、どのような場合ですか?
A.厚生労働省の「新型コロナワクチンQ&A」に詳しい情報が掲載されています。
https://www.cov19-vaccine.mhlw.go.jp/qa/
一般に、(1)明らかに発熱している方(通常37.5℃以上)、(2)重い急性疾患にかかっている方、(3)ワクチンの成分に対しアナフィラキシーなど重度の過敏症の既往症のある方などは、ワクチンを受けることができません。ご自身が当てはまると思われる方は、ワクチンを受けても良いか、かかりつけ医にご相談ください。
「Q6.ワクチンの副反応はどんなものがありますか?」もあわせてご参照ください。
Q6:ワクチンの副反応はどんなものがありますか?
A.ワクチンの副反応として、接種後に注射した部分の痛み、疲労、頭痛、筋肉や関節の痛み、寒気、下痢、発熱等がみられることがあります。まれにアナフィラキシーと呼ばれる反応が発生します。
新型コロナウイルスワクチンの副反応については、臨床試験が進んだり、各国で接種が広まったりする段階で、随時情報が更新される可能性があります。厚生労働省の「新型コロナワクチンQ&A」に詳しい情報が掲載されており、いつでも確認することができます。
上記のQ&Aによると、日本への供給が計画されている新型コロナウイルスのワクチンにおいては、接種後に注射した部分の痛み、疲労、頭痛、筋肉や関節の痛み、寒気、下痢、発熱などが報告されています。こうした症状の大部分は、接種後数日以内に回復していますが、まれな頻度でアナフィラキシー(短時間で発生するアレルギー反応)の発生が報告されています。もし、アナフィラキシーが起きたときには、すぐに治療が行う必要があります。接種後30分程度は、急な体調の変化(発熱、熱感、発赤、かゆみを伴う皮疹、息切れ、顔や舌の腫脹、悪心)がないか気を付ける必要があります。
ポリエチレングリコール(PEG)を含む半減期延長型製剤(アディノベイト®、ジビイ®、イスパロクト®、レフィキシア®等)に対してアレルギー反応を起こしたことがある血友病等の患者さんは、接種を受けられない可能性があります。ご自身が接種できるかどうか、かかりつけ医にご確認ください。これら の製剤でのアレルギーの報告は稀であり、 アレルギー等を心配して製剤を変更する必要はありません。
PEGやPEGに似たポリソルベートという物質に対し、重いアレルギー反応を起こしたことがある方も、接種が推奨されていません。PEGは、一般に、大腸検査の下剤や薬剤などを溶かす際に用いられているほか、ポリソルベートは、医薬品の他、乳化剤として、様々な食品や化粧品に用いられています。
「Q5. 新型コロナウイルスワクチンを接種できないのは、どのような場合ですか?」も併せてご参照ください。
予防接種による健康被害(疾病や障害の状態になること)が生じた場合は、予防接種法に基づく救済制度が設けられています。新型コロナワクチンの接種についても、健康被害が生じた場合には、予防接種法に基づく救済を受けることができます。
Q7:新型コロナウイルスのワクチンは、必ず接種しなければいけませんか?
A.接種は強制ではありません。受ける方の同意なく、接種が行われることはありません。
国が新型コロナワクチンの接種をお勧めしていますが、接種を受けることは強制ではありません。予防接種を受ける方には、予防接種による感染症予防の効果と副反応のリスクについてご理解頂いた上で、自らの意志で接種を受けて頂くことになります。
使用されるワクチンは、有効性と安全性が確認された上で薬事承認を得ていますが、集団免疫の効果や影響はまだ分かっておらず、評価が定まるまで時間を要するものと考えられます。
Q8:新型コロナウイルスワクチン接種は、どのような流れで行われますか?
A.新型コロナウイルスワクチンの接種は、国が定めた方針に沿って居住地の市町村が中心となって準備が行われ、地元の医療機関や接種会場で行われます。
国や自治体により新型コロナウイルスワクチン接種が行われています。情報は随時更新されますので、市町村からの広報など、居住地の自治体からのお知らせをよく確認するようにしてください。
厚生労働省の「新型コロナワクチン接種についてのお知らせ」では、以下のような流れが示されています。
<接種を受けるための手続き>(「新型コロナワクチン接種についてのお知らせ」抜粋)
・接種の時期より前に、市町村から「接種券」と「新型コロナワクチン接種のお知らせ」が届きます。
・接種を受ける医療機関や接種会場を選びます。
・接種を受ける際は、「接種券」と「本人確認書類(運転免許証、健康保険証など)」を持参します。
・医療従事者等の方は、一般の方より先に勤務先を通じて接種のご案内があります。市町村から送られた接種券は使用しないでください。
・接種費用は全額公費(無料)で支払われます。
接種券が届いたら、まずはかかりつけの医療機関に直接お尋ねください。
安心して受けられる環境で接種を受けることをお勧めします。「Q9.病気を他人に知られるのがこわいため、医療機関で接種したいのですが可能ですか?」もあわせてご参照ください。
Q9:病気を他人に知られるのがこわいため、医療機関で接種したいのですが可能ですか?
A.ワクチン接種を行っている医療機関は多数あります。しかし、すべての医療機関で接種できるわけではありません。
原則として住民票所在地の自治体の指示に基づき接種が行われていますが、厚生労働省は次のような方は、それ以外でのワクチン接種が可能と示しています。
1.住民票所在地市区町村外の医療機関や施設に入院・入所中で、その医療機関や施設でワクチン接種を受ける方
2.基礎疾患で治療中の医療機関でワクチン接種を受ける方
3.副反応のリスクが高い等のため、医師の判断により、体制の整った医療機関での接種が必要な方
4.国や都道府県の設置する大規模接種会場で接種を受ける方
5.職域単位(企業、大学等)で行う接種を受ける方
血友病の患者さんは、上記の2または3に該当すると考えられます。しかし、医療機関によってはワクチン接種を行っていない場合があります。接種券が届いたら、まずはかかりつけの医療機関に直接お尋ねください。
Q10:同居の家族はどうしたらよいでしょうか?
A.かかりつけ医や市町村から指示された方法で接種を受けてください。
患者さんとの同居やご家族であるかどうかに関わらず、接種の順番や接種方法は国で定めた方針に沿って行います。市町村から「接種券」と「新型コロナワクチン接種のお知らせ」が届いたら、指示された方法で接種を受けてください。
Q11:新型コロナウイルスワクチンの接種について、誰に相談すれば良いですか?
A.かかりつけの医師にご相談ください。
かかりつけ医と十分に相談して、接種の目的やリスクをご理解頂いた上で接種を受けてください。特に、血友病等の方は、かかりつけ医の指示のもと十分な凝固因子製剤の補充を行った上で、接種を受けて頂く必要があります。
エイズ治療・研究開発センター救済医療室では、全国の薬害HIV感染者の様々なご相談に応じております。かかりつけ医に相談できない、など、何かお困りのことがありましたらお気軽にご相談ください。