トップ > 関連情報 > 厚生労働省関連情報 > サーベイランスのためのHIV感染症/AIDS診断基準

サーベイランスのためのHIV感染症/AIDS診断基準

更新日:2018年8月13日

(厚生労働省エイズ動向委員会、2007年)

我が国のエイズ動向委員会においては、下記の基準(平成18年3月8日健感発第0308001号厚生労働省健康局結核感染症課長通知「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第12条第1項及び第14条第2項に基づく届出の基準等について」)によってHIV感染症/AIDSと診断され、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律第12条第1項に基づき届け出がなされた報告の分析を行うこととする。この診断基準は、サーベイランスのための基準であり、治療の開始等の指標となるものではない。近年の治療の進歩により、一度指標疾患(Indicator Disease)が認められた後、治療によって軽快する場合もあるが、発生動向調査上は、報告し直す必要はない。しかしながら、病状に変化が生じた場合 (無症候性キャリア→AIDS、AIDS→死亡等)には、必ず届け出ることが、サーベイランス上重要である。

なお、報告票上の記載は、

  1. 無症候性キャリアとは、Iの基準を満たし、症状のないもの
  2. AIDSとは、IIの基準を満たすもの
  3. その他とは、Iの基準を満たすが、IIの基準を満たさない何らかの症状があるものを指すことになる。

Contents

I HIV感染症の診断
II AIDSの診断
III 指標疾患(Indicator Disease)
(付記)厚生労働省エイズ動向委員会によるAIDS診断のための指標疾患の診断法

I HIV感染症の診断

HIVの抗体スクリーニング検査法(酵素抗体法(ELISA)、粒子凝集法(PA)、免疫クロマトグラフィー法(IC)等)の結果が陽性であって、以下のいずれかが陽性の場合にHIV感染症と診断する。

  1. 抗体確認検査(Western Blot法、蛍光抗体法(IFA)等)
  2. HIV抗原検査、ウイルス分離及び核酸診断法(PCR等)等の病原体に関する検査(以下、「HIV病原検査」という。)

ただし、周産期に母親がHIVに感染していたと考えられる生後18か月未満の児の場合は少なくともHIVの抗体スクリーニング法が陽性であり、以下のいずれかを満たす場合にHIV感染症と診断する。

  1. HIV病原検査が陽性
  2. 血清免疫グロブリンの高値に加え、リンパ球数の減少、CD4陽性Tリンパ球数の減少、CD4陽性Tリンパ球数/CD8陽性Tリンパ球数比の減少という免疫学的検査所見のいずれかを有する

II AIDSの診断

Iの基準を満たし、IIIの指標疾患(Indicator Disease)の1つ以上が明らかに認められる場合にAIDSと診断する。

III 指標疾患(Indicator Disease)

A. 真菌症

  1. カンジダ症(食道、気管、気管支、肺)
  2. クリプトコッカス症(肺以外)
  3. コクシジオイデス症
    1. 全身に播種したもの
    2. 肺、頸部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの
  4. ヒストプラズマ症
    1. 全身に播種したもの
    2. 肺、頸部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの
  5. ニューモシスティス肺炎

B. 原虫症

  1. トキソプラズマ脳症(生後1か月以後)
  2. クリプトスポリジウム症(1か月以上続く下痢を伴ったもの)
  3. イソスポラ症(1か月以上続く下痢を伴ったもの)

C. 細菌感染症

  1. 化膿性細菌感染症(13歳未満で、ヘモフィルス、連鎖球菌等の化膿性細菌により以下のいずれかが2年以内に、二つ以上多発あるいは繰り返して起こったもの)
    1. 敗血症
    2. 肺炎
    3. 髄膜炎
    4. 骨関節炎
    5. 中耳・皮膚粘膜以外の部位や深在臓器の膿瘍
  2. サルモネラ菌血症(再発を繰り返すもので、チフス菌によるものを除く)
  3. 活動性結核(肺結核又は肺外結核)
  4. 非結核性抗酸菌症
    1. 全身に播種したもの
    2. 肺、皮膚、頸部、肺門リンパ節以外の部位に起こったもの

D. ウイルス感染症

  1. サイトメガロウイルス感染症(生後1か月以後で、肝、脾、リンパ節以外)
  2. 単純ヘルペスウイルス感染症
    1. 1か月以上持続する粘膜、皮膚の潰瘍を呈するもの
    2. 生後1か月以後で気管支炎、肺炎、食道炎を併発するもの
  3. 進行性多巣性白質脳症

E. 腫瘍

  1. カポジ肉腫
  2. 原発性脳リンパ腫
  3. 非ホジキンリンパ腫
    LSG分類により
    1. 大細胞型
      免疫芽球型
    2. Burkitt型
  4. 浸潤性子宮頸癌

F. その他

  1. 反復性肺炎
  2. リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成:LIP/PLH complex(13歳未満)
  3. HIV脳症(認知症又は亜急性脳炎)
  4. HIV消耗性症候群(全身衰弱又はスリム病)
  • C11活動性結核のうち肺結核及びE19浸潤性子宮頸癌については、HIVによる免疫不全を示唆する症状又は所見がみられる場合に限る。
  • 各指標疾患の診断法は「厚生労働省エイズ動向委員会によるAIDS診断のための指標疾患の診断法」の記載による。この文書冒頭には「ここには基本的な診断方法を示すが、医師の判断により、より最新の診断法によって診断する場合もあり得る」と記載されている。

(付記)厚生労働省エイズ動向委員会によるAIDS診断のための指標疾患の診断法

A. 真菌症

1. カンジダ症

(1) 確定診断(いずれか一つに該当)

  1. 内視鏡もしくは剖検による肉眼的観察によりカンジダ症を確認
  2. 患部組織の顕微鏡検査によりカンジダを確認

(2)  臨床的診断

嚥下時に胸骨後部の疼痛があり、以下のいずれかが確認される場合

  1. 肉眼的に確認(いずれか一つ)
    <A>紅斑を伴う白い斑点
    <B>プラク(斑)
  2. 粘膜擦過標本で真菌のミセル様繊維を顕微鏡検査で確認できる口腔カンジダ症が存在

2. クリプトコッカス症

(1) 確定診断(いずれか一つに該当)

1)顕微鏡検査、2)培養、3)患部組織又はその浸出液においてクリプトコッカスを検出。

3. コクシジオイデス症

(1) 確定診断(いずれか一つに該当)

1)顕微鏡検査、2)培養、3)患部又はその浸出液においてコクシジオイデスを検出。

4. ヒストプラズマ症

(1) 確定診断(いずれか一つに該当)

1)顕微鏡検査、2)培養、3)患部又はその浸出液においてヒストプラズマを検出。

5. ニューモシスティス肺炎

(1) 確定診断

 顕微鏡検査又はPCR法により、Pneumocystis jiroveciを確認。

(2) 臨床的診断(すべてに該当)

  1. 最近3か月以内に(いずれか一つの症状)
    <A>運動時の呼吸困難
    <B>乾性咳嗽
  2. (いずれか一つに該当)
    <A>胸部X線又はCTでび漫性の両側間質像増強
    <B>ガリウムスキャンでび漫性の両側の肺病変
  3. (いずれか一つに該当)
    <A>動脈血ガス分析で酸素分圧が70mmHg以下
    <B>呼吸拡散能が80%以下に低下
    <C>肺胞-動脈血の酸素分圧較差の増大
    <D>酸素飽和度の低下
  4. 細菌性肺炎を認めない又はβ-D-グルカン高値

B. 原虫症

6. トキソプラズマ脳症

(1) 確定診断

組織による病理診断又は髄液PCR法により、トキソプラズマを確認

(2) 臨床的診断(すべてに該当)

  1. <A>頭蓋内疾患を示唆する局所の神経症状 又は、<B>意識障害
  2. <A>CT、MRIなどの画像診断で病巣を認める 又は、<B>コントラスト薬剤の使用により、病巣が確認できる
  3. <A>トキソプラズマに対する血清抗体を認める 又は、<B>トキソプラズマ症の治療によく反応する

7. クリプトスポリジウム症

(1) 確定診断

組織による病理診断又は一般検査により、クリプトスポリジウムを確認

8. イソスポラ症

(1) 確定診断

組織による病理診断又は一般検査により、イソスポラを確認

C. 細菌感染症

9. 化膿性細菌感染症

(1) 確定診断

細菌学的培養により診断

10.サルモネラ菌血症

(1) 確定診断

細菌学的培養により診断

11.活動性結核

(1) 確定診断

細菌学的培養又はPCR法により診断

(2) 臨床的診断

培養により確認できない場合には、X線写真等により診断

12.非結核性抗酸菌症

(1)確定診断

細菌学的培養又はPCR法により診断

(2) 臨床的診断

下記のいずれかにおいて、顕微鏡検査により、結核菌以外の抗酸菌を検出した場合は、非定型抗酸菌症と診断。

  • <A>糞便、汚染されていない体液
  • <B>肺、皮膚、頸部もしくは肺門リンパ節以外の組織

D. ウイルス感染症

13.サイトメガロウイルス感染症

(1) 確定診断

組織による病理診断による核内封入体を有する巨細胞の確認

(2) 臨床的診断

サイトメガロウイルス性網膜炎については、特徴的臨床症状で診断可。

(眼底検査によって、網膜に鮮明な白斑が血管にそって遠心状に広がり、数か月にわたって進行し、しばしば網膜血管炎、出血又は壊死を伴い、急性期を過ぎると網膜の痂皮形成、萎縮が起こり、色素上皮の斑点が残る。)

14.単純ヘルペスウイルス感染症

(1) 確定診断

1)組織による病理診断、2)培養、3)患部組織又はその浸出液からウイルスを検出することにより診断。

15.進行性多巣性白質脳症

(1)確定診断

組織による病理診断又は髄液PCR法により、JCウイルスを確認

(2)臨床的診断

CT、MRIなどの画像診断法により診断

E. 腫瘍

16.カポジ肉腫

(1) 確定診断

組織による病理診断

(2) 臨床的診断

肉眼的には皮膚又は粘膜に、下記のいずれかを認めること。

  1. 特徴のある紅斑
  2. すみれ色の斑状の病変

ただし、これまでカポジ肉腫を見る機会の少なかった医師は推測で診断しない。

17.原発性脳リンパ腫

(1) 確定診断

組織による病理診断

(2) 臨床的診断

CT、MRIなどの画像診断法により診断

18.非ホジキンリンパ腫

(1) 確定診断

組織による病理診断

19.浸潤性子宮頸癌

(1) 確定診断

組織による病理診断

F. その他

20.反復性肺炎

1年以内に二回以上の急性肺炎が臨床上又はX線写真上認められた場合に診断

21.リンパ性間質性肺炎/肺リンパ過形成:LIP/PLH complex

(1) 確定診断

組織による病理診断

(2) 臨床的診断

胸部X線で、両側性の網状小結節様の間質性肺陰影が2か月以上認められ、病原体が検出されず、抗生物質療法が無効な場合。

22.HIV脳症

下記のいずれかの状態があり、1)脳脊髄液検査、2)脳のCT、MRIなどの画像診断、3)病理解剖のいずれかによっても、HIV感染以外にこれを説明できる疾病や状況がない場合。

このページのトップへ