ACC診断と治療ハンドブック

解説編

治療継続と生活維持のための社会資源の活用

Last updated: 2022-09-29

 HIVに感染すると、慢性疾患と同様に長期にわたる通院と抗HIV療法の服薬継続が必要となる。病気を抱え、定期的な通院や毎日の規則正しい服薬を欠かすことのできない生活の中で、患者・家族は心理的苦痛を感じるだけでなく、就労や家計などあらゆる生活場面で、個人では解決が困難な問題に直面する可能性がある。このような状況にある患者・家族を支援するために、以下に示すような様々な社会資源が活用されており、治療の継続と生活との両立に一定の効果を上げている。 HIV感染症医療では、治療的介入に留まらず、生活支援の視点を併せ持った関わりが求められる。患者本人の意思を尊重するとともに、患者・家族等の生活や価値観、個人の事情に配慮し支援しながらも、患者本人が問題に向き合い自らの力で解決・解消のため行動することを支援する「セルフマネジメント支援」の姿勢が重要である。

経済的な支援

 

1)公的医療費助成
 注意:助成の対象となる医療費は保険診療内のものに限られる

(1) 高額療養費制度
 月ごとの医療費の自己負担額が高額になった場合、一定額を超えた金額について、加入する健康保険より払い戻される制度。

(2)「身体障害者手帳(免疫機能障害)」
 *HIV感染者が利用可能な医療費助成には、障害の認定が必要である。
 身体障害者福祉法に基づき、規定の障害程度に該当すると認定されたHIV感染者には、免疫機能障害として身体障害者手帳が交付される。身体障害者を対象とした社会的支援(高額な医療費の軽減や税の基礎控除、福祉サービスの利用、就労の機会獲得など)を受ける際、この身体障害者手帳が必要な場合がある。指定医師により、規定の障害程度(1~4級)に該当すると診断された場合、患者は都道府県に交付申請が可能。申請から交付まで約1~2ヶ月かかるため抗HIV療法の開始を見越した早めの申請が患者の医療費軽減につながる。

*身体障害者手帳と同時申請が可能
①重度心身障害者医療費助成
 身体障害者手帳の取得者に対する医療費の一部を助成。対象者は自治体の基準による。
②自立支援(更生)医療
 身体障害者手帳の取得者に対する抗HIV療法、合併症予防や治療などHIV感染症に関する治療費の一部助成。事前申請により、自治体から指定を受けた医療機関、調剤薬局、訪問看護ステーションで適用される。有効期限があり更新手続きが必要なことに注意が必要である。

(3)薬害HIV感染者の医療費助成は、上記の制度よりも以下の制度が優先利用となる。
(厚生労働省発行の「血友病薬害被害者手帳」に各種公的サービスの利用案内あり参考にされたい。)
 *基本的に医療費は保険証と下記の①②の3点を併用し自己負担なし。
①特定疾病療養費
 長期にわたって療養が必要な血友病・人工透析を必要とする腎不全・血液製剤によるHIV感染症の患者の医療費を助成するもの。自己負担上限額:10,000円/月へ。
②先天性血液凝固因子障害等治療研究事業
 20歳を超えた血友病患者の自己負担1万円(①の負担分)がこの事業で公費負担される(入院時の食費を含む)。

2)その他

①傷病手当金
 病気や怪我のために仕事を休み、事業主から十分な報酬が受けられない場合に支給される。
②雇用保険失業等給付(基本手当)
 失業中の生活を心配することなく新しい仕事を探し、1日も早く再就職することを支援する目的で支給される。
③障害年金
 病気や怪我で、法令により定められた障害の状態が認められた場合に支給される。
④各種障害者手当
 障害の程度や所得制限などの支給要件がある。
⑤生活保護
 経済的に困窮する国民に対して、最低限度の生活を保証する制度。

・生活への支援
 訪問診療、訪問看護、障害福祉サービス、介護保険、保健師による訪問と相談・指導等

・就労への支援
 ハローワーク、障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、在宅就業障害者への支援等

 



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