ACC診断と治療ハンドブック

日和見疾患の診断・治療

HIV関連キャッスルマン病(MCD)、KICS
(HIV-associated Multicentric Castleman's Disease)

Last updated: 2022-09-29

1.MCD


はじめに

 HIV患者で見られるHHV-8(human herpesviurs-8)関連疾患としてはカポジ肉腫(KS)の頻度が最も高い。一方で、比較的稀ではあるが、診断の遅れが致死的となりうる極めて重要なHHV-8関連疾患として、多中心性キャッスルマン病(Multicentric Castleman's Disease :MCD)がある。
 MCDは初期には自然寛解、再燃を繰り返すため、積極的に本症の可能性を疑わなければ、病初期には診断されずに見逃されてしまうリスクがある。これを繰り返し何度目かの再燃時に一気に病態が悪化すると、わずか数日の経過で多臓器不全にいたり死亡しうる、極めて予後不良の疾患である。多くのHIV関連疾患が臨床的には緩徐進行性であるのに対し、本疾患は非常に急速に進展し、数日の経過で致死的となりうる数少ない重要な疾患である。原因不明の発熱症例では、自然寛解した場合でも本疾患の可能性を念頭に置いておく事が早期診断、予後改善の鍵となる。

病態

 MCDでは腫大リンパ節内でポリクローナルに増殖しているHHV-8感染plasmablastが病態形成に重要な役割を果たしている。活動期にはこのplasmablastからHHV-8由来のvIL-6(viral IL-6)が多量に産生される。vIL-6はヒト体内でhuman IL-6(hIL-6)と同様の生理活性を発揮する。産生されたvIL-6は宿主由来のvascular endothelial growth factor (VEGF)の産生を促し、産生されたVEGFはリンパ節の血管内皮からのhIL-6産生を刺激する。このようにvIL-6およびhIL-6を主体とした炎症性サイトカインと、その他の各種サイトカインの誘導によるサイトカインストームがMCDの病態の本質であると考えられている。
 HHV-8はKS、MCDおよび悪性リンパ腫発症とも関連しているため、それぞれが重複あるいは経過中に発症するリスクが高い。MCD患者の非ホジキンリンパ腫の発生頻度は、MCDを発症していないHIV患者の15倍高いとする報告もある。

診断

 原因不明の発熱が自然寛解・再燃を繰り返す場合には、本症を積極的に疑う。活動期には血小板減少、CRP高値、低アルブミン血症、貧血を認め、緩解期にはこれらのデータの改善が見られる。特に活動期のCRPの著明高値(>10mg/dL)、血小板減少(<5万/µL)は頻度の高い特徴的な検査データであり、この両者の検査所見が時期的に連動して見られる場合には、MCDである可能性が非常に高い。
 確定診断は表在リンパ節の生検を行い、病理で多数の形質細胞の浸潤と免疫染色によりこれらの細胞のHHV-8感染を証明する事で行う。血清HHV-8の検出はMCDを示唆する所見であるが、KSの一部でも血清HHV-8は陽性であり、MCDであっても緩解期には血清HHV-8は陰転化しうるため、これをMCDの診断の根拠としてはならない。
 FDG-PETでは活動期の病勢を反映して病変部への集積がみられ(写真1)、病勢評価に有用とする報告がある。緩解期での検出感度はそれほど高くない。一方で、GaシンチではKSと同様に活動期でも病変部への集積が全く見られないという報告が複数あり、FDG-PETと合わせて判断することで、本疾患にしばしば併発する悪性リンパ腫(Gaシンチで集積あり)の検出に有用である可能性がある。

写真1:活動期MCDにおけるFDG-PET所見

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治療

 現時点でMCDに対する標準治療は確立していないが、すでにRituximabの有効性を示す知見が蓄積しており、コンセンサスを得つつある。
 Rituximabによる寛解導入80例の長期成績も報告1)されており、維持治療なしでの中央値6.9年間の観察期間中の5年生存率は92%であり、5年間のrelapse-free survivalは82%であったとしている。再発例は全例でRituximabによる再治療が有効であった。
 Rituximab治療の問題点は、活動性の高い時期には効果が不十分であること、高率に合併しているKS病変がRituximab治療により増悪するリスクが高いことである。
 ACCでは活動性の高いMCD増悪期にはliposomal doxorubicinによる治療を1-3クール行い、病勢を一旦落ち着かせてからRituximabを投与している。
 ARTの導入についてはMCDがARTにより増悪する可能性を示唆する報告が多いため、MCDの治療を先行して病勢が落ち着いてから導入するほうが望ましい。

(活動期)
liposomal doxorubicin 20mg/m2 (病勢が落ち着くまで3週間隔で反復)→その後、緩解期の治療へ

(緩解期)
Rituximab 375mg/m2 (1週間隔で4サイクル投与する)(保険適用外)


2. KICS

 HHV-8関連疾患として、MCDに非常に類似した病態を呈するものの、MCDで特徴的にみられるリンパ節病変が存在しない病態がある事が知られている。この病態は、カポジ肉腫関連炎症性サイトカイン症候群(Kaposi sarcoma inflammatory cytokine syndrome(KICS))と呼ばれており、リンパ節病変がない、あるいはリンパ節生検でもMCDに特徴的な所見が見られない事を除けば、臨床症状および病態はMCDとほぼ同一である。急速進展により致死的となりうる予後不良の疾患である点には変わりない。
 現時点ではまだ知見に乏しいが、現時点までの報告例では、診断および治療については、MCDと同様である可能性が高いと考えられている。
 現時点では、MCDに準じた治療を行う事が勧められる。


文献
1.Pria AD, Pinato D, Roe J, et al. Relapse of HHV8-positive multicentric Castleman disease following rituximab-based therapy in HIV-positive patients. Blood. 2017 Apr 13;129(15):2143-2147

参考
AIDSに合併するカポジ肉腫等のHHV‐8関連疾患における診断と治療の手引き 第3版(PDF:10.5MB)
http://hhv-8.umin.jp/doc/pdf/HHV8_tebiki_3.pdf
厚生労働科学研究 エイズ対策研究事業「エイズ患者におけるカポジ肉腫関連ヘルペスウイルスが原因となる疾患の発症機構の解明と予防および治療法に関する研究」班(研究代表者:片野晴隆)

カポジ肉腫関連炎症性サイトカイン症候群 (Kaposi sarcoma inflammatory cytokine syndrome (KICS))
http://after-art.umin.jp/hhv8/KICS.html

HIV に合併するHHV-8 関連疾患の発生および治療実態調査 -全国HIV診療拠点病院アンケート調査2016年-
http://after-art.umin.jp/hhv8/enq.html

 



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