ACC診断と治療ハンドブック

日和見疾患の診断・治療

カポジ肉腫

Last updated: 2022-09-29

疫学と病因

 カポジ肉腫(以下KS)は、HIV感染者に生じる腫瘍性疾患では、非ホジキンリンパ腫と並び頻度の高い疾患である。発症例のほとんどがMSMの患者であるという疫学的な特徴がある。発症にはKSHV(HHV-8)の活性化が関連しており、皮膚を中心としてほぼ全ての臓器に発症しうる多中心性の腫瘍である。

好発部位と臨床像

 好発部位は皮膚であり、掻痒や疼痛を伴わない紫紅色から黒褐色の皮膚病変を来す。病変の進展は皮膚割線に沿って細長い楕円形病変となる傾向があり、典型的には皮下に膨隆を蝕知できる病変が多発性に並列に並ぶように進展する(写真1)。一方で、大腿内側部の病変や足底部の病変は癒合傾向が強く、大きな病変塊として見られる事が多く(写真2)、部位により色調や形態など視診上の特徴が異なっている。リンパ節も好発部位であり、進展すると顔面・四肢の難治性のリンパ腫浮腫を起こす。リンパ浮腫を伴うようになると、疼痛により患者のADLを著しく低下させうる。特に下肢に強い浮腫を呈する場合(鼠径リンパ節病変を併発している事が多い)には、進行により、後述する治療を行っても高度の浮腫が残存する事があるため(写真3)、下肢浮腫への進展が臨床的に懸念される場合には、早期・かつ積極的な治療介入が望ましいと当科(ACC)では考えている。皮膚以外では、口腔粘膜(特に硬口蓋や歯肉)、消化管、呼吸器、リンパ節などの発症頻度が高く、眼瞼結膜や肝臓、心膜、椎体、中枢神経などほぼ全ての臓器に発症しうる。内臓病変は皮膚病変を伴わないこともあり、また自覚症状も乏しいことが多い。ただし、生命予後の観点から最も重要なのは呼吸器(肺)病変(呼吸不全への進展リスク)および咽頭病変(腫瘍増大による気道閉塞リスク)であり、その他の病変については病変の見落としや診断の遅れが予後に影響を与える事はほとんどない。
 以上の観点から、KSが疑われる症例では、まずリンパ浮腫の有無、咽頭病変の有無、肺病変の有無を確認が重要であり、下血や何らかの消化器症状を有する場合には積極的に上下部消化管内視鏡検査を実施して、消化管病変のスクリーニングを行う事が勧められる。

写真1

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写真2

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写真3

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診断

 特徴的な皮膚・粘膜病変では視診および触診によりKSを疑って診断する事は容易である。確定診断のためには生検による病理学的診断を要するが、実際には非典型的な病変である場合を除き侵襲的検査は不要である。肺病変におけるKSに特徴的な画像所見は、両側性びまん性、特に気管支血管束周囲に強い辺縁不整の結節、あるいは辺縁不正の浸潤影である(写真4)。気管支内視鏡では気管や気管支にKS様の病変が見られる事が多い。肺病変のTBLBによる診断感度はそれほど高くない上に、生検後の出血リスクがあるため、呼吸不全への進展を考慮し、内視鏡や画像所見がKSで矛盾しない場合には肺病変のTBLBを推奨しない専門家も多い。
 組織学的には、紡錘形細胞が増殖し内部に赤血球を含有するスリット状の管腔構造が認められる。いわゆる「肉腫」としての異型性は目立たないことが多く、病理医へKS疑いであることを伝えないと血管腫などと判断されることもある。免疫組織化学染色を行い感染細胞中のHHV-8関連蛋白を証明できれば診断が確定できる。
 画像診断では、病変にGaシンチグラフィーで取り込みが見られない点は特記すべき特徴である。特にリンパ節腫大を呈する症例で、Gaの取り込みが見られる場合には、KS以外の悪性リンパ腫や抗酸菌感染などの他疾患の合併を疑い、生検による積極的精査が勧められる。

写真4

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治療

 限局性の皮膚病変や全身性であっても進行が緩徐な皮膚病変であれば、ARTのみで経過を見ることが可能である。消化管病変を含む内臓病変も初期であればARTのみで経過観察可能・治癒が可能である。ただし、肺病変や咽頭病変を有する例、リンパ浮腫を呈する例、疼痛によるADL低下が見られる例、腫瘍量が多い症例、進行が早い症例などでは全身化学療法を積極的に行う。KS発症例の全例が治療適応ではなく、美容上(顔面の病変など)やADL、生命予後の観点から個別に治療適応を判断する。治療に用いられるリポゾーマルドキソルビシンは骨髄抑制があるため、投与下ではART実施後もCD4数の増加がほとんど見られない。KSに対する過剰治療は、免疫不全状態の遷延により生命予後を悪化させるリスクがある点を考慮する事が重要である。
 治療は、リポゾーマルドキソルビシン(Doxil®)20mg/m2を2-3週毎に投与する。投与回数は、病変部位、CD4数、他の合併日和見疾患の有無などを考慮して、症例毎に検討する。一般的には、Doxil投与を1-2回先行後にARTを開始し、合計で4-6回の投与すれば、その後はARTのみでゆっくりと寛解にとなることが多い。なお、Doxil投与を先行せずにARTを導入すると、免疫再構築症候群(IRIS)により病変が急速に増大することを稀ならず経験する。当科では、咽頭や気道病変を有する症例ではDoxilによる治療を1-2回先行してからARTを導入する事が多い。


参考
HHV-8関連疾患(カポジ肉腫・キャッスルマン病・原発性滲出性リンパ腫)
AIDSに合併するカポジ肉腫等のHHV‐8関連疾患における診断と治療の手引き 第3版(PDF:10.5MB)
http://hhv-8.umin.jp/doc/pdf/HHV8_tebiki_3.pdf
厚生労働科学研究 エイズ対策研究事業「エイズ患者におけるカポジ肉腫関連ヘルペスウイルスが原因となる疾患の発症機構の解明と予防および治療法に関する研究」班(研究代表者:片野晴隆)

 



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