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HIV感染症の診断
治療の進歩により、HIV感染症は早期に診断できれば長期生存が期待できる疾患となっています。また細胞性免疫不全が進行しエイズを発症してしまった場合でも、経過中の早い時期にHIV感染症の存在に気付くことができれば、救命し長期生存につなげられる疾患は多数あります。HIV感染症の早期診断は、感染者自身に大きな利益をもたらします。
HIV感染症に特異的な症状はなく、診断のためにはHIVの検査を行う必要があります。検査は通常(1)スクリーニング検査 (2)確認検査 の順番で行われ、確認検査が陽性であればHIV感染症の確定診断となります。2008年版のガイドライン1)では、確認検査として「ウエスタンブロット法」と「核酸増幅検査法(RT-PCRなど)」が推奨されていましたが、ウエスタンブロット法からイムノクロマト法を用いた新たな抗体確認検査法への世界的な移行を受けて、2020年版のガイドライン2)では「新規のHIV-1/2抗体確認検査法」と「核酸増幅検査法」の同時施行が推奨されることとなりました(図1)。

出典:診療におけるHIV-1/2感染症の診断ガイドライン2020版(日本エイズ学会・日本臨床検査医学会 標準推奨法)
HIVスクリーニング検査として、現在日本では第4世代のスクリーニング検査が広く用いられています(表1)。第4世代検査ではHIV抗体とHIV-1抗原を同時に検査するため、ウインドウピリオド(HIV感染が成立してから検査が陽性となるまでの期間)が短くなっていますが、感染初期には偽陰性となることもあります。このため、最近リスク行為があった場合や急性HIV感染症を疑う所見がみられる場合には、間をあけた再検査を行うか、HIV-1 RNA-PCR法による診断確定を行う必要があります。※1
※1 2021年2月現在、急性HIV感染症の診断目的には保険適応なし
検査の種類 | 検査の対象 | ウインドウピリオド | その他 | |
---|---|---|---|---|
スクリー ニング | 第1世代 | HIV-1 IgG | 約50日 | 偽陽性あり |
第2世代 | HIV-1/2 IgG | |||
第3世代 | HIV-1/2 IgG/M | 最短22日3) | ||
第4世代 | 第3世代+HIV-1 p24抗原 | 最短17日3) | ||
ウエスタンブロット法 | HIV粒子の構成タンパクに 対するIgG抗体 |
全バンドが陽転化するまでの 時間には個人差が大きい |
特異度が高い | |
HIV-1/2 抗体確認検査 (Geenius™ HIV 1/2 キット) |
HIVリコンビナントタンパク (HIV-1 GP41・GP160 ・P24・P31、および HIV-2 GP36・GP140) に対するIgG抗体 |
ウエスタンブロット法より 早期に陽性となる場合あり |
特異度が高く、HIV-1と HIV-2の交差反応が ウエスタンブロット 法より少ない |
|
核酸増幅検査(PCR法) | HIV-1 RNA (HIV-2 RNAについては 研究室レベルの検査) |
約2週間 | 稀に偽陽性 |
現在使用できるスクリーニング検査は感度・特異度とも非常に高い優れた検査ですが、常に偽陽性の可能性があり、これは感染率が低い集団で検査を行う際に特に大きな問題となります。スクリーニング検査陽性の段階で結果説明を行う場合には、必ず偽陽性の可能性を念頭に置く必要があります。
前述のように、感染リスク行為から間もない時点でのHIVスクリーニング検査陰性の結果は、必ずしも「感染していない」ことを意味するものではありません。また、リスクを自覚しての自発的な検査は、その後の受検者の感染リスクを低下させる大きなチャンスです。検査結果にかかわらず、受検者がその後より安全な行動(性交渉を行う際には常にコンドームを使用するなど)を取ることができるような指導を行う必要があります。
なお、医学的に必要性があるにも関わらず意識障害などのため本人の同意を得ることができないような場合を除き、HIV検査を行う前には本人に説明し、同意を得る必要があります。
参考:HIV感染症の診断に関わる検査の保険適応について
HIV感染症の診断・診療に関わる代表的な検査の保険適用を示します。
D012 感染症免疫学的検査 | |
---|---|
16 HIV-1,2抗体定性、HIV-1,2抗体半定量、HIV-1,2抗原・抗体同時測定定性 | 115点 |
18 HIV-1,2抗体定量、HIV-1,2抗体定量、HIV-1,2抗原・抗体同時測定定量 | 127点 |
46 HIV-1抗体(ウエスタンブロット法) | 280点 |
49 HIV-2抗体(ウエスタンブロット法) | 380点 |
<通知>
(10) 診療録等から非加熱凝固因子製剤の投与歴が明らかな者及び診療録等が確認できないため血液凝固因子性剤の投与歴は不明であるが、昭和53年から63年の間に入院し、かつ、次のいずれかに該当する者に対して、「17」のHIV-1抗体、「16」のHIV-1, 2抗体定性、同半定量、「18」のHIV-1, 2抗体定量、「16」のHIV-1, 2抗原・抗体同時測定定性又は「18」のHIV-1, 2抗原・抗体同時測定定量を実施した場合は、HIV感染症を疑わせる自他覚症状の有無に関わらず所定点数を算定する。
ただし、保険医療機関において採血した検体の検査を保健所に委託した場合は、算定しない。
ア. 新生児出血症(新生児メレナ、ビタミンK欠乏症等)等の病気で「血が止まりにくい」との指摘を受けた者
イ. 肝硬変や劇症肝炎で入院し、出血の著しかった者
ウ. 食道静脈瘤の破裂、消化器系疾患により大量の吐下血があった者
エ. 大量に出血するような手術を受けた者(出産時の大量出血も含む。)
なお、間質性肺炎等後天性免疫不全症候群の疾病と鑑別が難しい疾病が認められる場合やHIVの感染に関連しやすい性感染症が認められる場合、既往がある場合又は疑われる場合でHIV感染症を疑う場合は、本検査を算定できる。
(11) HIV-1抗体及びHIV-1,2抗体定性、半定量又は定量、HIV-1,2抗原・抗体同時測定定性又は定量
ア. 区分番号「K920」輸血料(「4」の自己血輸血を除く。以下この項において同じ。)を算定した患者又は血漿成分製剤(新鮮液状血漿、新鮮凍結人血漿等)の輸注を行った患者に対して、一連として行われた当該輸血又は輸注の最終日から起算して、概ね2ヶ月後に「17」のHIV-1抗体、「16」のHIV-1, 2抗体定性、同半定量、「18」のHIV-1, 2抗体定量、「16」のHIV-1, 2抗原・抗体同時測定定性又は「18」のHIV-1, 2抗原・抗体同時測定定量の測定が行われた場合は、HIV感染症を疑わせる自他覚症状の有無に関わらず、当該輸血又は輸注につき1回に限り、所定点数を算定できる。
イ. 他の医療機関において輸血料の算定又は血漿成分製剤の輸注を行った場合であってもアと同様とする。
ウ. ア又はイの場合においては、診療報酬明細書の摘要欄に当該輸血又は輸注が行われた最終日を記載する。
(12) 「18」のHIV-1,2抗体定性、同半定量、及び「18」のHIV-1, 2抗体定量は、LA法、EIA法、PA法又は免疫クロマト法による。
(42) 「46」のHIV-1抗体(ウエスタンブロット法)又は「49」のHIV-2抗体(ウエスタンブロット法)は、スクリーニング検査としての「16」のHIV-1, 2抗体定性若しくは同半定量、「16」のHIV-1, 2抗原・抗体同時測定定性、「17」のHIV-1抗体、「18」のHIV-1, 2抗体定量又は「18」のHIV-1, 2抗原・抗体同時測定定量が陽性の場合の確認診断用の検査である。
※イムノクロマト法を用いた新たな抗体確認検査は令和2年度診療報酬点数表には収載されていないが、令和2年12月28日付の通知(保医発1228 第3号)により、令和3年1月1日より以下の記載が追加されることとなった。
(48)スクリーニング検査としての「16」のHIV-1, 2抗体定性若しくは同半定量、「16」のHIV-1,2抗原・抗体同時測定定性、「17」のHIV-1抗体、「18」のHIV-1, 2抗体定量又は「18」のHIV-1, 2抗原・抗体同時測定定量が陽性の場合の確認診断用の検査として、イムノクロマト法により、全血、血清又は血漿中のHIV-1特異抗体及びHIV-2特異抗体を検出する検査を行った場合は、本区分の「46」HIV-1抗体(ウエスタンブロット法)及び「49」HIV-2抗体(ウエスタンブロット法)を合算した点数を準用して算定する。なお、本検査を実施した場合、本区分の「46」HIV-1抗体(ウエスタンブロット法)及び「49」HIV-2抗体(ウエスタンブロット法)は、別に算定できない。
D023 微生物核酸同定・定量検査 | |
---|---|
15 HIV-1核酸定量 注 検体の超遠心による濃縮前処理を加えて行った場合は、130点を加算する。 |
520点 |
20 HIV-ジェノタイプ薬剤耐性 | 6000点 |
<通知>
(20) HIV-1核酸定量
ア. 「15」のHIV-1核酸定量は、PCR法と核酸ハイブリゼーション法を組み合わせた方法により、HIV感染者の経過観察に用いた場合又は区分番号「D012」感染症免疫学的検査の「17」HIV-1抗体、「16」のHIV-1, 2抗体定性、同半定量、HIV-1, 2抗原・抗体同時測定定性、「18」のHIV-1, 2抗原・抗体同時測定定量、又は「18」のHIV-1, 2抗体定量が陽性の場合の確認診断に用いた場合のみに算定する。
イ. HIV-1核酸定量と区分番号「D012」感染症免疫学的検査の「46」のHIV-1抗体価(ウエスタンブロット法)を併せて実施した場合は、それぞれを算定することができる。
(26) 「20」のHIV-ジェノタイプ薬剤耐性は、抗HIV治療の選択及び再選択の目的で行った場合に、3月に1回を限度として算定できる。
参考文献
1. 診療におけるHIV-1/2感染症の診断 ガイドライン2008(日本エイズ学会・日本臨床検査医学会 標準推奨法). 日本エイズ学会誌 11(1):70-72, 2009.
2. 診療におけるHIV-1/2感染症の診断ガイドライン2020版(日本エイズ学会・日本臨床検査医学会 標準推奨法)
https://jaids.jp/wpsystem/wp-content/uploads/2021/01/guideline2020.pdf
3. Patel P, et al. Detecting acute human immunodeficiency virus infection using 3 different screening immunoassays and nucleic acid amplification testing for human immunodeficiency virus RNA, 2006-2008. Arch Intern Med 2010;170(1):66-74.
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