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トップページ > 医療従事者向け情報 > 感染管理・曝露事故対応 > 医療機関におけるHIV感染対策の原則

医療機関におけるHIV感染対策の原則

1. 一般的事項

HIVが通常の接触で感染伝播することはない。よってHIV自体の感染対策としては、標準予防策で十分である。標準予防策の概要については成書を参照されたい。

血液や髄液、髄液およびこれらを含んだ体液を介した感染が起こりえるが、その他の患者由来検体(唾液、汗、非血性便など)での感染のリスクは極めて小さく、入院患者間での通常の接触におけるHIV感染リスクはないと考えてよい。

標準予防策

すべての患者の血液・体液、分泌物(汗を除く)、排泄物(これらを総称して「湿性生体物質(moist body substance)」と呼ぶ)を感染の危険を有するものとみなし対応する方策。そもそも標準予防策自体が、米国におけるHIV感染症/AIDSの蔓延を契機に、患者と医療従事者双方における病院感染の危険性を減少させるために考案された普遍的予防策(ユニバーサル・プリコーション Universal Precaution)から発展したものである。

2. 採血における感染対策

採血はありふれた医療行為であり、かつHIVへの曝露事故が生じる可能性が最も高い医療行為である。その意味で、採血時の標準予防策の遵守**は、HIV感染対策において最も重要である。標準予防策の要点を以下に列記する

  1. 適切な大きさの手袋を選択すること(写真1)
  2. 可能な限り真空管採血ホルダーを使用し、針による分注を回避すること
  3. 原則的にリキャップはしないこと
  4. 使用後は針を直ちに廃棄すること(写真2)

写真1. 適切な大きさの手袋の選択

  • 不適切な例の画像

    [不適切な例]
    手袋が大きすぎ,指先が余っている

  • 適切な例の画像

    [適切な例]
    手に合った大きさで,動きの制限もない

写真2. 針廃棄ボックスの携帯と採血後の速やかな廃棄

針廃棄ボックスの画像

不適切な大きさの手袋は、操作を不確実にすることでかえって針刺し事故のリスクを高める。使用済みの針をすぐに廃棄しない場合、第三者への針刺し事故のリスクを高めるのみならず、廃棄し忘れた場合に曝露源不明の針刺し事故につながりうる。採血時には小さな針捨てボックスをワゴンに乗せて携帯することが望ましい。

なお、HIV感染症診療において唯一特別な点は、血液・体液曝露事故が発生した際に適切な曝露後予防内服を行うことで、感染リスクを大きく低下させることができる点である。曝露後予防内服に関しては別項で述べる。

既知のHIV感染者の採血時に手袋を着用することは広く行われているが、「初診時から手袋なしで採血していたが、HIV感染症が判明したので以後手袋を着用する」という対応もいまだにみられるようである。実際には抗HIV療法で良好にコントロールされているHIV感染者由来の血液による感染リスクは非常に小さく、未診断のHIV感染者(特にインフルエンザ様症状で病院を受診しうる急性HIV感染期の症例)由来の血液の方が高リスクである。「HIV感染者だから手袋」ではなく「血液曝露の可能性があるから手袋」が正しい対応である。HIV感染症診療を、自らの「標準」を見直す契機としたい。

3. 臨床検体の取り扱い

血液を含む臨床検体を扱う場合には、必ず手袋を着用して行う。検体の移送は専用の容器に入れて行う(写真3)ことが原則であり、手で検体を直接持って運搬することは避ける。これは検体の紛失や落下による破損事故を防ぐ意味でも重要である。

上記は標準予防策の概念であり、HIV感染者由来の検体に対して特別に行うものではない。

写真3. 検体の移送に用いる容器の例

  • 容器の画像1
  • 容器の画像2